『田園の詩』NO.48 「ほしいまゝ」 (1996.6.25) 犬の散歩コースにしている山沿いの道の横を、小さな川が流れています。川を覆い 尽くすほど咲いていた野イバラに代わって、今度は、卯の花が同じように白い花を 一面に咲かせました。山では時鳥(ホトトギス)が、朝早くから一日中、時には夜中 までも鳴いています。 私が毎日目にし耳にしている卯の花と時鳥の鳴き声は、夏の到来を告げる風物 として、『万葉』以来、多くの歌に詠み合わされてきました。 誰もが知っている歌は「卯の花の匂う垣根に 時鳥早もきなきて 忍び音もらす 夏は来ぬ」(『夏は来ぬ』)という唱歌でしょう。 これは、江戸末期の歌人・加納諸平の歌「山里は 卯の花垣の ひまをあらみ しのび音もらす時鳥かな」の翻案だと、調べていて初めて知りました。 ところで、時鳥が「忍び音」をもらすと歌われています。辞書にも「忍び音」の項 に、「早い時期に時鳥が声をひそめて鳴くこと」とあります。しかし、私はその声を まだ聞いたことがありません。どんな鳴き声なのか詳しい人に教えてもらいたいもの です。 私の知っている時鳥の鳴き声といえば、「テッペンカケタカ」とも、「特許許可局」 とも聞き取れる、古人が「帛(きぬ)を裂くがごとし」と表現した、あのするどい一種 独特の声です。山に囲まれた空いっぱいにその声は響き渡ります。 その風光は、「谺(こだま)して 山ほととぎす ほしいまゝ」という杉田久女の句 が一番当てはまります。 ![]() 東京から来た友達を案内して、英彦山に登りました。 久女の句碑の前で記念写真を撮ってもらいました。 400万画素位のデジカメで。 (04.10.11) 久女はこの句を、私の住む大分県と福岡県にまたがる修験道の山・英彦山(ひこ さん)で作りました。「ほしいまゝ」の言葉を得るのに大変苦労をし、何度も山に通っ たそうです。 梅雨に入り、連日の雨で新緑は益々色を深めてきました。この季節、山里に暮らす 私達は、「目には青葉 山ほととぎす …」等々、五官の全てを通して自然の溌剌 とした息吹を「ほしいまゝ」満喫することができます。 (住職・筆工) 【田園の詩NO.】 【トップページ】 |